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【No.565】 2012.11.24 / 21:22 | 雑記/落書き

■ 本人だけが楽しい話

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 赤沢さんの今年の文化祭作品を読んで、何かが滾ってしまった結果、できちゃった産物。
 若干事後承諾気味でしたが許可は取りました(満足したら放置する事を含めて)。有難うございます!(*´∀`)


▼諸注意

・うちのこin赤沢さん宅のメイプル世界な話
・舞台の関係上、赤沢さんの作品を見てないとワケワカメ
・不定期且つ満足したら放置。既に続かない可能性が高い
・楽しみたかっただけな勢い文章なので、小説作法がアレだったり日本語がアレだったりする
・パラレルです。パラレルです。パラr(ry
・実は「他所の世界と比較する形でうちの世界設定を出しておきたい」という邪な理由もあった

 …以上を読んで「大丈夫!」という方は追記にどうぞ


続き

.


 世界とは、時には入れ子であり、時には並列であるのかもしれない。
 ――と、ある学者は云った。



 嫌な予感というものは、概ね的中するものである。
 彼の元には相当な頻度でトラブルが持ち込まれる為、予感が外れないぐらいに面倒事と関わらなければならない、と言った方が正しいのかもしれない。
 そんな日常であるが故に、彼の「右腕」を自称する男が、見ず知らずの他人を片手で担いできたところで、取り乱すこともなく冷静に突っ込みを入れるに至った。
「……誰だ、そいつ」
 整理中の書類を掴んだまま、このビルの所有者兼ギルドマスターのRXは、気だるげに問うた。何しろ、散歩に出かけたと思ったら女の子を連れてきたり、ゴミ捨て場から世界征服を企てるロボットを持ってきたりする連中である。今更見知らぬ人間を連れてきたところで、そう驚きはしない。大方、気を失っていただとか、ちょっと小突いたら加減が出来なかったとか、そんなところだろう。
「それが……ニオン森を通りかかったら倒れていて……」
 担いだ人間を下ろす怪力の男、メカ魔人の傍で、彼らに付き添っていたもう一人の男、二十七ゴウが答えた。答えとしてはRXの予想通りである。
「そんなこったろうと思ったが――ん?」
 言いかけた言葉を飲み込んで、RXは立ち上がり、ソファへと近づく。
「放っておく訳にもいかないですし、あわよくば謝礼もゲットですよボス!」
 ガッツポーズをする魔人の傍ら、同意も突っ込みもせず、今尚目を覚まさない彼を見つめる。
「海賊……バッカニアか? いや、それよりも――」
 ロイヤルバロンに白いマント、左の目を覆う髑髏のバンダナ。そして、腰には黒と金のナックルが一対。土に汚れてはいるが、身なり自体は悪くない。狩りでもした後なのか、それとも。
「……ボス?」
 ニヤァと、RXはプリーストらしからぬ笑みを浮かべる。
「ククク……魔人、二七。こいつはマジで謝礼が期待できるかもな」
「この人を知っているんですか、RXさん……?」
「いや、知らねーよ。でもよ、結構いい身なりしてねーか?」
「言われてみれば……」
 RXの言葉を聞き、二人は改めてその姿を確認する。彼らも謝礼こそ期待はしていたが、そこまでの考察はしていなかったらしい。彼ららしいといえば彼ららしい。
「それにこのナックルと帽子……キングセントとカノープスハット、Lv100武器と110装備だ」
「110だってっ?」「110だとっ!」
 ハモる二人。それを見て尚、RXは続ける。
「バッカニアだとは思うけどよ……もしかしたら、四次かもしれねーなぁ」
「四次、ですか……」
 15人が所属しているRXのギルドだが、四次はたった一人、アークメイジのウィルのみであり、マスターであるRXもプリーストである。それだけ、四次職は珍しい存在なのだ。
「まぁ、特Aとかなら何かしらのデジャヴは感じるだろうし、全く見覚えが無いってことは、犯罪者やVIPじゃあねぇだろ。……まあ、その辺は勘によるところが大きいがな」
 腕を組み頷くRXの言葉を聞いた所で、不意に二七が呟いた。
「そういえば……変ですね」
「どうしたんだ?」
「いえ……何でこの人は武器をアイテムボックスに入れてないんだろう、って」
「なんだ二七、そんな事かー。肌身離さず持ってないと落ち着かないとか、そういう主義なんじゃないか?」
「そう、ですかね……?」
「オレも魔人と同意見だな。まあ……素手でも強いバッカニアが、ってのは引っかからないでもないけどなー」
 言うだけ言い切り、さて、と腕を解く。漸くというべきか、この場では彼だけが使えるスキル、ヒールを使用する。
「ただ気絶してるだけなら、これですぐ目を覚ますだろ」
 RXの言う通り、少し唸った後に、彼の人物はぎこちなく瞼を開いた。



 闇、無から救い上げられる感覚。
 記憶は曖昧、前後は断絶。救いの糸は、暖かな癒しの力。
 導かれるままに、うっすらと瞼を開く。ぼんやりと映った光景に、彼が漏らした言葉は――。
「ミ、デン……さん……?」
 ――今尚、再開を願う恩人の名前。


「ミデン……?」
「――わ、あ、すみませんっ!」
 訝しげに鸚鵡返しをするRX。その顔を視認し、海賊は跳ね起きた。明らかに動揺した様子で口を開けるが、言葉は出ない。
「ククク……誰と勘違いしてるのかしらねーが、目は覚めたみたいだな」
「……ここ、は」
「カニングシティの、ボスのビルさ!」
「カニング、ですってっ……?」
「ええ。ニオン森で倒れてるあなたを俺達が見つけて――」
「ニオン森、ですか? おかしい、どうしてそんなところに……」
 黙り、考え込む海賊。この流れで察し、二七は問うた。
「もしかして……記憶喪失、とか……?」
 難しい顔で、海賊は唸る。
「もし、本当に、ここがカニングなら――もしかすると、本当に、記憶喪失と言えばそうなのかもしれません」
 一つ一つ言葉を選ぶ様にたどたどしく、そしてそれ故にどこか他人事のように響く言葉。
「ビクトリアには向かっていましたが、船に乗った記憶がありませんし……それに、ヘネシスより西にくる予定もありませんでしたし……」
 そうだ、と海賊は言った。
「自分の近くに、うり坊はいませんでした?」
「うり坊? いや、いなかったですね」
 落ち着いてみれば丁寧な物腰、そして二十代と思われる出で立ちの為、丁寧語で答える魔人。
「そう、ですか……」
「ところで、名前は?」
 海賊の言葉に被せる様に、RXは問うた。
 本人曰く記憶喪失らしく、尚更身元が不透明になってきたが、名前を聞けば心当たりもあるかもしれない。それでも駄目なら、自身の名を伝えることでその反応を見る――そんな魂胆だ。良くも悪くも、RXのギルドは名が通っているからこそ出来る方法である。
「ああ……レン、と呼んでください。皆さんは?」
 呼んでください、という言い方がRXには引っかかる。愛称ならいいが、あえての偽名という可能性も捨てきれない。そんな疑問を持たせるような名乗り方を、なぜこの人物はしたのか。
 しかし、単純な魔人と純粋な二七は、そんなことは気にしない様で。
「俺はメカ魔人、略すなら魔人でおねがいします!」
「あ、二十七ゴウです。二七と呼ばれてます」
 なんということは無い、普通の自己紹介。しかし海賊――レンのほうも何か引っかかるものがあったようで、不思議そうな顔をした。
 しかし、それも一瞬のこと。レンはすぐに表情を戻す。
「RXだ」
 RXも名乗るが、しかし今度は特別な反応を見せない。
「二七さんに魔人さんにRXさん……助けていただいて、有難うございました」
「それにしても記憶喪失……事件の臭いがするなあ!」
「確かに変な話ですよね……気がついたらビクトリアにいた、なんて」
 数々の事件に関わってきた為、事件の可能性が気になるギルドの一同。
 しかし、当のレンは笑って言った。
「まあ、ここがカニングと解っただけで十分ですよ。このお礼は、必ず」
 その言葉を聞き、他の三人も密かに笑う。程度は違えど、何れも決して純粋な笑みとは言いがたいが。
 そんな様子は気にも留めず、ああそうだ、とレンは言った。
「地図、ありますか? 何せ、ビクトリアに来たのは五、六年ぶりなもので」
「五、六年っ?」
「地図? まあ、あるにはあるが……。カニングシティ全域の地図でいいか?」
「ええ、十分です」
 帰還書やタクシーでも使えばいいのに、などと思いながらも、RXは引き出しに向かった。蛇腹状に畳まれた地図を取り出し、僅か首を傾げつつもレンに手渡す。
「ありがとうございます」
 一方で、にこやかにレンは地図を広げた。
 しかし――。
「……おかしい」
「どうかしました、レンさん……?」
 不安げに二七は訊く。
 しかし、レンは言葉を返さない。何度も地図を確認した後に、恐る恐る、彼は口を開いた。
「……RXさん」
「ん?」
「これは……本当に、カニングシティの地図ですよね?」
「ああ、そうだが」
「どうしたんです?」
「いや――」
 魔人の問いにもろくに返さず、レンは立ち上がり、早足で窓の傍へと向かった。
 そして――窓の外に広がる光景を見ての、再度の絶句。魔人も駆け寄り外を見るが、そこはいつもどおりのカニングシティである。建築物の足元を行き交う、住民、冒険者達……。
「どっこもおかしな所は無いけどなあ」
 しかし、レンの顔は険しい。
「やっぱり、だ……こんな報告も情報も、一つも無かった」
「レンさん?」
 二七も駆け寄るが、彼が外を確認しても状況は変わる訳でもなく、ただ魔人と顔を見合わせることしか出来ない。
 地図を叩くように示しながら、漸くレンは口を開いた。
「この地図……事前に確認していたものと違いすぎますし、昔来た時とも違いすぎるんです!」
「あんたの見た地図や記憶が間違ってた、ってーのは?」
「いや、カニングの地図は何種類か確認しましたが、こんな複雑で精密な地図は無かった……それに、この活気――」
「……あの!」
 割り込んだのは、二七。
「もしかしたら、もしかしたらですけど……」
 彼は心当たりがあった。指を立てて、飽くまで大真面目に彼は言った。
「……別の時代から飛ばされてきた、とか」
「別の時代……?」
 きょとんとするレンと、「あー」と声を漏らす魔人とRX。
「この間のアレかー」
「そういえばそんなこともあったらしいな……ククク」
「ううむ……確かに、時に纏わる話は幾つも聞いたことはありますが」
 じゃあ、と指を立ててレンは尋ねる。
「今は、芽暦何年ですか?」
「芽暦……?」
「そんな年号初めて聞きましたね……」
 あれ、という顔をする三人と一人。
「芽暦が通じない……? でも、ここは確かにカニング……どういうことだ……?」
 謎が謎を呼ぶ展開。
 そんな状況下で突破口を見出したのは、RXであった。
「……おい、二七」
「はい?」
「お前が飛んだ先にゃあ、未来の俺らがいたんだよな」
「ええ……あちらのギルドは七人だけでしたが……」
 そうか、とRXは少し黙って、そして告げた。
「レン……だったか?」
「ええ」
「これから、俺の知ってる有名人や有名ギルドを挙げてくからよ、知ってる名前があったら教えてくれ」



「んー」
 着席する一同。一人デスクで頭を掻くRX。
「俺んとこだけじゃなくてブラックボックス……それに特Aまで誰も知らないってのはなー」
「リュンクス、パッセル、デルピス……イデアロクスも通じないか……」
 それぞれが知る限りの有名所を出した上での、結論。
 それを口にしたのは、レンであった。
「多分、恐らくですが……とてもよく似た「だけ」の、別世界かもしれませんね、ここは……」
 呟くように告げ、彼は頭を抱えた。
「参ったな……楽しみたいのは山々だけれど、早いところギルドに戻らないといけないのに……」
「この状況で「楽しみたい」と言えるレンさんが凄いですよ……」
「ん、ギルド? さっき挙げてた所のどこかか?」
「いえ、取るに足らない小さなギルドなので」
 ただ、と不安げに言う。
「自分が不在の間は連合相手に色々任せているんですが、そっちのマスターはちょっと過激というかブレーキが効かない、というか……」
「あー、いるいる、そういう奴」
 ブレーキが効かないどころか、ブレーキの概念すら無さそうな人間が沢山いるギルドであるが故、ついRXも頷いてしまう。しかし、気になったのはそれではない。
「連合ってこたー、そこそこ大きなギルドみたいだが……ギルマスでもやっているのか?」
「え、あ。でも、本当に知名度なんてありませんから!」
 などと言いつつ、ギルマスであることは否定しないレン。これが同一世界であれば、謝礼が期待できたものの……と密かに残念がるRXであった。勿論、表には出さなかったが。
「あぁ、でも……これで謎が一つ解けました」
 納得した顔で、レンは言う。対して、二七と魔人は疑問符を浮かべる。
「謎?」
「ほら、魔人さんや二七さんは、まるで本名の様な名乗り方だったじゃないですか」
「あれ、レンさんは違うんですか……?」
「違うといえば違いますが……文化的な違い、でしょうか。自分のいた世界では「通名文化」というのがあって、冒険者は本名を名乗らないし問わないのが礼儀なんですよ。まあ、人によっては通名が本名みたいなものでもあるのですが」
「成程なー、そこは俺も変だとは思ってたな。わざわざ偽名だと言う様な、あの名乗り方がな」
「ええっ、そんな事気にしていたんですか、ボス!」
「全く、気にもしませんでしたよ……」
 驚く二人に、RXはあまり宜しくない類の笑みを返した。
「そりゃー、身の上が解らないとなっちゃあ、それぐらい気になるだろう」
「まあ、その気持ちは解りますね」
 特に不快感も示さず、レンは同意した。ギルドマスター同士、何か通ずるところがあるのかもしれない。……ギルドメンバーの二人としては、黒い部分まで通じていないことを祈るばかりであるが。
「……そういえば、通貨はどうなのだろう」
 服の内から財布を取り出しながら、ぼやくようにレンは言う。
「ゴールドマンも意味が無いだろうし……同じだったとしても、手持ちは数十万ぐらいしか――」
「数十万?!」「数十万ですって?!」
 再びハモる魔人と二七。さらりと大金を言われたのだから当然である。
 そんな中、冷静にRXは問うた。
「……それ、単位は「メル」か?」
「ええ」
 でも、と、先ほどの地図を弄びながらレンは続ける。
「単位は同じですけど……この地図を見る限り、一メルの価値は全く違うみたいです。流石に今回は旅の最中でしたから、少し多めに持ち歩いていましたが……これ全部がポケットマネーという訳でもないですし」
「成程ねぇー」
「後は――」
 財布を開くレン。ついつい覗き込む二七と魔人。そしてこっそりと目を光らせるRX。
 三人に見えるように硬貨を掴み上げ、レンは尋ねた。
「通貨自体も、同じですかね」
「同じ……ですね!」
 こちらの世界で言うところの大金を目の前に、二七の語尾はつい上がる。
 知ってかしらずか、ほっとしたようにレンは微笑んだ。
「よかった。これで皆さんにお礼が出来る」
「礼、ねぇ」
 しまわれていく財布を見ながら、RXはニヤリと笑った。
「アンタ、職業はバッカニアか?」
「ああ、こちらでは海賊も一般に知られているんですね。まあ……バイパーになったところですが、バッカニアの様なものです」
「ククク……まさかと思ったが本当に四次職とはなー」
「こちらも、四次職は珍しいんですか?」
「まあな。うちにも一人いるだけだ」
 目をあわせるギルマス二人。どうやら、互いにその後の流れを察したらしい。
 それを口を挟むタイミングを見失った二人がぼんやりと見つめる。
 切り出したのは、RX。
「戻るアテが見つかるまで部屋を貸してやるからよー、代わりにウチで働かね?」
「でも――」
「まあ家賃は貰うが、一番狭い部屋でこの額だ。持ち金もあることだし、四次のアンタなら片手間でも大丈夫だろ。それに、オレんとこは情報屋も兼ねてる。悪い話ではないと思うが……?」
「お互いに助け合い、ということですか」
 指で示された数字を見て、レンは少し考える。流石に二七とその仲間達が暮らしている屋上よりは高いが、毎日何処かに泊まるよりは断然お得な額だ。
「そう……ですね、お役に立てるかは解りませんが、お願いしてもかまいませんか?」
「ククク……こちらとしても有難ぇなー」
 仮に普通職だとしても、四次というだけで純粋に強い。加えて海賊職はギルドにまだ居ない。話している限り、他の面々に比べれば遥かに常識人と言える。――などと考えて、RXは内心ほくそ笑んだ。
「そうと決まれば――ちょっと待っててくれ」
 立ち上がり、相変わらずの調子でRXはドアへと歩む。ノブを掴み、扉を開けたところで、思い出したように彼は言った。
「そうだ。アンタをここへつれてきたのは魔人と二七だからな、気が向いたら礼に飯にでも連れて行ってやってくれ」
「ええ、勿論」
 迷い無く、レンは答える。彼の笑みと、魔人と二七の輝く瞳に見送られながら、RXは今度こそ扉の向こうへ姿を消した。
 ――そして、扉向こうに待機していた盗賊の男と一言二言交わした後、真剣な面持ちで耳打ちする。
「調べてもらいたいことは山ほどあるが、とりあえず、挙げてたギルドが本当に存在しないのかどうかと、レンという人間が存在したという証拠が見つからないか……それを頼みたい」
 RXの利き腕である「左腕」の男は頷くと、窓の外へ姿を消した。

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