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【No.193】 2007.12.12 / 01:08 | 創作物

■ 作品消化祭:六日目

※ラインナップ、詳細はこちら

#一言日記:今日はコレピク三昧だった…


◆Devotion(下)(2/5)
ジャンル…オリジナル
形式…小説
補足…リアル文化祭での作品。若干修正済。
 序、上はサイトに置いてあります。


続き

 真上にあった太陽が傾きだした頃。
 辿り着いたのは、小さな洞の中の小さな泉であった。
「さ、到着だ」
 シュウナイの前に座るハシュツが、彼女の方を振り向いて言った。
 シュウナイの目は、突如現れた泉に釘付けになり、そしてその口は言葉を発した。
「<大地の世界>に、こんなところがあったなんて……」
 岩だらけの世界に、水、そして若干であれ緑がある様は、一言で言うと異質であった。泉の周りでは、見た事も無い小動物達が、のんびりとその恩恵を授かっていた。
 ハクシュウは二人を背に乗せたまま、その泉の側へと足を歩める。小動物達は道を開けこそすれ、逃げる様子はなかった。
 泉の側へと辿り着き、ハクシュウは座りこんだ。
「とりあえず水を飲みなよ。話はその後だ」
 ハクシュウの背から降りつつ、ハシュツは言った。
「あ、はい」
 慌てた様子でシュウナイもその背から降りた。慣れない感覚と体の痛みで、思わず転びそうになりながらも何とか地に足を着ける。やはり地に足がついているというのは、とても安定した感覚だ。
「えっと……じゃあ」
 一人と一匹の方を見て、遠慮がちにシュウナイは言った。彼らが頷くのを見て、彼女は恐る恐るしゃがみ込む。そしてゆっくりと水をすくい上げ、口へと運んだ。
「……美味しい」
 その水が崖上よりも美味しかったのか、空腹でそう感じただけなのか。それは定かでは無いが、少なくともシュウナイは素直にそう感じた。
 二度、三度……と彼女は水を飲み続ける。
 その傍らで、ハシュツを降ろしたハクシュウも水を飲み始めた。その一滴一滴を味わおうとするように、ゆっくりと。
 満足がいくほど飲んだのか、やがて、シュウナイは振り向いた。彼女の背後に立っていたハシュツは、ただ笑顔だった。彼女もおもむろにシュウナイの側へと座る。
 笑顔は唐突に消え、真剣な面もちでハシュツは言った。
「酷な質問、いいかい?」
「あ、はい」
 ハシュツは少しだけ考え込むように黙り込み、そして言った。
「シュウナイちゃんさ……その服来て落ちてきたって事は、贄、だよね」
 シュウナイは、ハシュツから目を逸らし、黙って頷いた。
「贄になったこと、どう思ってる?」
 その質問は確かに酷で、シュウナイはただ一言も言わずに目を閉じた。
 彼女の様子を見て、ハシュツは溜息一つ吐くと、太股の上で頬杖をつき、泉の向こう側を見つめ始めた。
 隣に居るハクシュウの目を見ても、彼が事の次第を静観するだけのつもりなのは明らかであった。
 やがて、痺れを切らしたように、ハシュツは空いた手で頭を掻きながら、言った。
「ごめん、ちょっと行き過ぎた質問だったね」
「……いいえ」
 シュウナイがゆっくりと目を開き、ハシュツの問いに答え始めた。
「贄に選ばれるのは光栄な事――そう言われて育って、そう信じていましたし、今も実際信じて居ます。ただ……」
 そう言って、シュウナイは泉に映る自分の像に、視線を落とした。
「地神に選ばれるのは光栄な事だと思うんです。でも、民の為の贄、と言うのは納得が出来ない。結局、私自身、私の気持ちがよく解らないんです……」
「そっか」
 ハシュツもまた、シュウナイの像へと視線を移す。
「地神、って本当に居ると思う?」
「えっ?」
 それは、シュウナイには到底理解の出来ない質問であった。
 思わず、彼女はハシュツの方を向いた。
「そりゃそうですよ。地神というのは、世界や私たちを作って下さったものですもの」
「成る程ね……」
『うむ……』
 其処に続いたのは、若干の沈黙。
「あ、あれ……私、何か変な事言いましたか……?」
 その言葉に答えたのは、ハクシュウだった。
『いや……それが娘にとっての真実なのだからな。間違いでは無かろう』
「どういうことですか……?」
 ハクシュウを見るべく体を前にのめらせ、シュウナイは言った。
『今、教える訳にはいかぬ』
「どうしてです?」
『おぬしに一つ見せたい、いや、見せねばならぬものがある。のう、ハシュツ』
「ああ」
 ハシュツは落ちていた石を放り投げ、そして投げた。落ちた石はそこから波紋を生み、シュウナイとハクシュウの像を歪めてゆく。
 彼女は立ち上がり、言った。
「近くにもう少し広い洞窟があるから、今日はそこで寝て、明日行こう。いいだろう?」
 それは意志を問う言葉ではなく、確認の言葉に等しいものであった。
「ええ、構いません」
 抗う理由が無かったから、シュウナイはそう答えた。

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