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◆Devotion(下)(4/5)
ジャンル…オリジナル
形式…小説
補足…リアル文化祭での作品。若干修正済。
序、上はサイトに置いてあります。
陰の星が西へと沈み、入れ替わりに出てきた陽の星もまた西へと沈みかけた頃。
「もうすぐだ」
ハシュツは前を向いたまま、シュウナイにそう言った。
「ねぇ……そろそろ教えてくれても――」
「駄目駄目」
そう言って、シュウナイの言葉は遮られる。目覚めてから十数回目のやりとりである。
「むぅ……」
不機嫌そうにそう言うシュウナイをたしなめるように、彼らを乗せたハクシュウが口を挟んだ
『まぁ娘。我らは別に意地悪しようという訳では無いのだよ。其処を理解してくれぬか?』
「……はい」
相変わらずの様子のシュウナイを見かねたのか、ハシュツは振り向いて言った。
「まぁまぁ、そうふてくされないでくれないかな。それより、こんな話知ってる?」
「どんな話です?」
シュウナイは顔を上げ、ハシュツの目を見た。ハシュツはそんな様子に小さく笑うと、続けて言った。
「崖上の民がまだ崖上に住んで無かった頃の話」
「えっと、住んでなかったらしいって話しか知らないです……」
ハシュツは目を見開き、言った。
「嘘っ?時代を感じちゃうなぁ……」
「時代って……」
「僕が生きてた頃にはもう少し詳しく伝承されてたんだよ」
「へぇ」
「で、ずーっと此処で生きてるっていうハクシュウに聞いたら、それが事実だと証明してくれた。それも、補足付きでね」
『我も伊達には生きておらぬからな』
いつの間にかシュウナイの目は、子供の純真な瞳と化していた。今にも物語を聞きたがる、小さな子供のそれそのもの。
「それ、凄く聞きたいです」
「勿論」
そう言って、ハシュツは再び前を見る。そして、物々しく語りだした。
「むかしむかし、ある<大地の世界>と呼ばれる所に人々が住んでいました。彼らはこの厳しい世界に耐えながらも、細々と暮らしていました。今にも砕けてしまいそうな彼らを支えたのは、神と呼ばれる存在でした」
シュウナイは、ただ黙って聞き続ける。
「そのものは人々に様々な啓示を施しました。しかしある時、恐いもの知らずな若者が、見つけてしまったのです。彼らの頭上に広がっていた、天空の楽園を」
「もしかして、それが私たちの住んでいた――」
「そう。楽園へと行けば、きっともっと平和に暮らせる。人々のその希望と望みは、日に日に増してゆくばかりでした。けど……」
「けど?」
「神は、代言者を通じてそれを頑なに拒みました。しかし、ついには神もある条件と引き替えに、楽園へ行くことを許し、其処へと移った人々を守護し続ける事を約束しました。それが――」
「贄……」
シュウナイの顔は、いつの間にか真剣な面もちとなっていた。
ハシュツは、溜息を一つ吐き、続けた。
「そう……つまり、そういう事」
「でも、何故贄を」
「さぁ……僕にも解らないな。糧とする為か、それとも……」
ハシュツは途中で言葉を止めた。ただ、夕日に照らされた<それ>を見続ける。
『到着だ』
そう言ってハクシュウは腰を下ろす。先に降りたのはハシュツだった。
「さあ」
そして彼女は、促すようにその虚構の手を差し出した。
シュウナイは辺りを見回し、そしてハクシュウの背から降りた。
そこは、不自然に開けた場所であった。不自然な場所には一つだけ大きな岩があるのみで、他にはこれといって何がある訳でも無かった。
ハシュツはその岩を指さして言った。
「あれ、何だと思う?」
えっ、と一瞬言葉を漏らして。
「岩、じゃないんですか……?」
「うーん、やっぱり予想通りの答えか」
そして、ハシュツは歩き出した。一瞬遅れてシュウナイ、そしてハクシュウがそれに続く。
ハシュツは岩の目前で立ち止まると、シュウナイに手招きをした。小走りにやってきたシュウナイに、ハシュツは岩の下部を指さして、言った。
「ここ、ちょっと手で払ってみて」
言われた通り、シュウナイは砂を払う。出てきたのは、簡潔な一文であった。
――我、地神也。
シュウナイの目は、その文に釘付けとなった。ただ息を荒らげる彼女を尻目に、ハシュツはその岩に手をつくようにし、そして言った。
「これが、その<神>とやらの正体だ」
「これが……」
『うむ』
その劇薬に等しい言葉と共に、ハシュツはもう一つ、言葉を吐いた。
「そして……僕が、先代の贄だ」
「僕は地神なんて信じてなかったし、この岩だってたんなる岩だと思ってたから、だから抗って百年存在し続けた。けれど、この岩が本当に地神では無いなんて誰にも証明はできやしない。そして、逆もまた然りだ」
ハシュツはシュウナイにそう言って。
「シュウナイちゃんは、どうする?」
究極の問いを、発した。