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◆Devotion(下)(5/5)
ジャンル…オリジナル
形式…小説
補足…リアル文化祭での作品。若干修正済。
序、上はサイトに置いてあります。
『ハシュツ』
<大地の世界>の上部から、ぼんやりと世界の向こうを見つめるハシュツに、ハクシュウは語りかけた。
「……ん?」
『おぬしは、本当にこれでよかったのか?』
ハシュツは一瞬、傍らに座り込むハクシュウを見て、再び視線を戻した。
「彼女が決めた事だよ」
そして、彼女は儚く笑った。
「彼女の生きた<世界>は、僕の<世界>とは違っただけだ」
その少女の最期の言葉、最期の姿を思い出すように。
――私が生きた<世界>は、谷の底には地神が居て、民達を超越したそれは、私達の理解の外に居る。そんな世界だったから。だから、私はもう一度、今度こそ――。
「ただ……それだけだ」
『納得しているのなら、それでよい』
そして彼もまた、世界の向こうへと視線を向けた。
ただ、風の吹き抜ける音だけがその世界を支配する。一人と一匹にとっては、百年変わらぬ日常的な風景であった。
だが、ハクシュウは再び言葉を紡いだ。
『……解っておるな?』
言葉を促すように、ハクシュウはハシュツの顔を見る。ハシュツは何も言わない。それが答えだった。
ハクシュウの言葉は続く。
『魂の寿命はよくて百数十年。おぬしの魂は脆い故、我がつなぎ止めておるが――』
「うん、解ってるさ。自分の事だから」
遮るように、ハシュツは言葉を発する。その顔は穏やかであった。
「一代後の<贄>も、ちゃんと見届けたしね」
ハクシュウに顔を向け、そして彼女は小さく笑った。その体は少しずつ、少しずつ光の粒へと変化してゆく。
「次に生まれる時は、<崖上の民>には生まれたくないな」
『輪廻転生を信じるのか?』
「地神神話よりよっぽどいいよ」
少しの沈黙の後、二人は同時に笑い出した。いつもの風景、日常的。たった一つの点を除けば。
笑顔のまま、やがてハシュツの体は完全に光の粒と化し、風に吹かれるように霧散していった。
それはあまりにも、呆気なかった。
その光の粒を見つめた後、ハクシュウは空を仰いだ。何処までも蒼い空が、其処にはあった。
その白い虎は、ただ一度だけその空へと向かって咆哮すると、其処に背を向け地の方へと駆け下りて行った。
× ×
――贄の年が来た。
崖上の民は祈る。我らに平和を与えよ、と。
<地神>は言う。贄を捧げよと。
選ばれたのは、一人の少女。
The world don't end...
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▼作品に関する補足説明
この作品はasha氏(Ethnotronica)の「devotion」を題材に執筆致しました。(muzie掲載の文章も参考にさせて頂きました)