「かーごめかごめ、篭の中の鳥はー――」
「――いついつ出やるー」
窓の外の、コンクリートの壁に向かって歌う少女の歌に、知らない誰かが合わせて歌った。
長い濡烏の髪と、真っ黒で大きな瞳。市松人形を彷彿とさせるその少女の視線の先に、突如娘が現れた。ふんわりとした金の髪に、真っ白のワンピース。ある意味、少女と真逆の容姿。
口を閉じてじっと娘を見つめた少女は、淡々とした口調で彼女に言った。
「もう少し、気を付けた方がいいわ」
「何が?」
歌うことを止め、不思議そうに娘は問う。
そんな彼女から視線を外すことなく、無機物的に少女は答えた。
「この世界では、人間は空を飛ばない」
「あら」
其処は、二階の窓際。娘は確かに、宙に浮いていた。
娘は少し驚いた様に、少女に問うた。
「貴方――もしかして、「カゴドリ」? それとも、「ツバメ」?」
「なあに、それ」
あら、と再び少女は呟いて、そして少し黙り込んだ。
かと思うと。
「確か……流産の歌、だったわよね、さっきの歌」
「そういう説もあるらしいわ」
でも、と少女は言葉を続けて。
「私にとっては、違う歌に聞こえるの」
「――「世界」という檻に囚われた、平凡な一人の少女の話?」
「よく解ったわね」
「やっぱり貴方、「カゴドリ」なのよ」
これまで無表情だった少女が、少し困った様な顔をして。
「詳しいことは、よく解らないわ」
「だって貴方、私を見ても全く驚かなかったじゃない」
「……聞いたことがあるの」
控えめに、少女は呟く。
「私達の住む世界の外側に、もっと大きな世界が広がっているって」
「誰に聞いたの?」
「お友達に」
そう……と娘は小さく呟く。
「……ねえ」
今度は、少女が娘に問い掛ける。
「貴方は、その「外の世界」からやってきたの?」
「ええ、そうよ」
「外の世界は、どんな場所なの?」
ほんの少しだけ、少女の瞳に光が宿った。
そうね……と娘は少し考えて。
「例えるなら――海、かしら」
「海……?」
「そう、海」
それを聞いて、眉を潜めて少女は言った。
「やっぱりよく解らないわ」
「仕方がないわ……口で説明するのは難しいもの」
「ねえ。……私も、その外の世界に行くことは出来るの?」
娘の顔が、一瞬曇った。
「……難しいわ」
「そう……」
「「カゴドリ」が、外の世界を飛び交う「ツバメ」になるには、切っ掛けが必要なんだけど……でも、残念だけど私にはその「切っ掛け」を作る力がないわ」
でも、と娘はぎこちなく微笑む。
「私が此処に来ることが出来たと言うことは、誰か……そういう力を持った「ツバメ」が来るかもしれない。それに、「糸」は何もしなくても切れる事もあるらしいの。だから……何時か、出られるかもしれない」
ただ、と娘は更に言い加えて。
「一度外へ出てしまえば、滅多な事では戻ってはこられないけれど……」
「それでも――何時か、行ってみたいな」
ずっと黙って耳を傾けていた少女が、独り言の様に呟いた。
「ええ……出られれば良いわね。良いことばかりじゃないけれど、外の世界もそれなりには良いところだから」
じゃあ、と娘は一度伸びをして。
「私、この世界を観光してくるわ。忠告、ありがとうね」
少女は、唯無言で頷く。
「何時か……本当に、外の世界で逢えるといいわね」
そう言い残して、少女は一瞬で姿を消した。
それを、少女は娘が現れた時と同じ様に、唯無表情に見つめていた。
窓の外を横切った、二匹のツバメ。
それはまるで、少女の世界を切り開く小太刀の様で。
少女の瞳には、いつの間にかはっきりとした光が宿っていた。
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(反転)) 「それ」が見えるだけの者と、それを飛び越える力を持った者との「壁」。昨日の就寝前にぱっと脳内に湧いてきた場面、偶には会話メインの文章を。