◆ Line - 2
僕らに対して怪訝そうな顔をする受付嬢に、僕はインナーにこっそり着けた「勲章」を外して、さっと見せた。彼女の顔はふっと軽くなって、続けてやってきたオーナーらしき妖精族の男性が、一番奥の席へと案内してくれた。
驚きと疑問の言葉を発するレンさんと、不思議そうな表情のヴェレさん。その二人に、僕はまた「僕の口からは……」という言葉を投げ返した。クリンやハースに何か考えがあるかもしれない以上、あまり情報を漏らすのはよくないと思ったからだ。
僕らはそれぞれ飲み物を注文し、当たり障り無い会話をしつつ他の仲間の到着を待った。……居心地が悪いのは、僕も同じだ。何か話していないと、何となく不安になってくる。
その会話の間にふと、ヴェレさんが気になった。小さく笑ったりはするけれど、基本的には複雑な表情で黙っているだけ。発言らしき発言は、レンさんに促されたときか、その彼に対する突っ込みぐらいだ。
けれど、僕も僕でエールの暴走を阻止するのに精一杯で……彼に関しては、あまりとやかく考えない事にした。
……ハースとクリン、そしてソウルマスターの彼がやってきたのは、僕らが入店してから三、四十分ぐらい後の事だった。
「いやー、お待たせお待たせ!」
他に客が居ないのをいい事に、彼はそう豪快に笑ってやってきた。
彼こそ――あくまで名目上ではあるが――第七隊リーダーである、テンドーだ。頭上で小さく縛った髪が彼を幼く見せるけれど、金色の装飾が施された黒い鎧と、それとは対照的な白く大きな剣が、貫禄……という訳ではないものの、彼が持つその力を物語っていた。
「初めまして、俺がリーダーのテンドーだ。よろしく!」
「名目上、な」
間髪置かず、ハースが突っ込みを入れる。
レンさんが立ち上がり、僕らやハース達にしたのと同じように、自己紹介をした。
「初めまして、レンと呼んで下さい。隣にいるのは、うちのギルドのヴェレです」
紹介されたヴェレさんも、座ったままではあるが、三人、主にテンドーに一礼した。
ええっと、とレンさんは少し黙った。そして、思い切ったように。
「ニハル方面の海賊ギルド、サンドローズのギルドマスターをしています」
「サンドローズだとっ?」
初めて口にした彼らの所属ギルド名、それに反応したのは、ハースだった。
「知っているのかい? ハース」
問いかけたテンドーに「知らないのか」と小馬鹿にしたように言うと、ハースは腕を組み言った。
「テンドーはどうせ知らねぇだろうが……クリン、テララオアシスは知っているか?」
「ああ、それなら。確か、アリアントに匹敵するぐらい大きなオアシスだろう? 「幻の街」を求める者達の中継地点になっているとかなんとか、聞いたことなら」
言われてみれば聞き覚えがあるような無いような、そんな地名。ニハル方面にはアリアントにしか行ったことが無いから、記憶が曖昧なのは仕方がない話。
「その通りだ、今はな。ほんの十年近く前までは、相当治安の悪い場所だったらしい……。」
「つまり、どういう事?」
痺れを切らした様に、エールが口を挟む。
「ちぃっとぐらい自分で考えてから聞けよこの野郎。 ……まあ何処かのファミリーだかグループだかが占領しちまって、管理連合を立ち上げたって話だ。……合ってる、よな」
「占領、とは、また人聞きの悪い言い方を!」
そう突っかかったのは、今までずっと黙っていたヴェレさんだった。だが、その勢いもレンさんが制する。
「よせ、ヴェレ。……ま、端的に言うとその通りですね」
「しかし、証拠がない。お前がそのサンドローズのギルドマスターだという、証拠が」
「証拠って、まーた大層な。細かいことを気にしすぎだよ、ハースは!」
テンドーの言葉に、ハースは更に眉間の皺を深める。
「お前が気にしなさすぎなんだよボケ! そのサンドローズってのはな、それなりに有名なギルドなんだよ……! 騙りが出てもおかしくない程度にはな」
「証拠、な……」
そう呟いて、レンさんはふっと笑った。苛々した苛立ちのヴェレさんとは対照的に。
「少なくとも砂漠の人間である事、若しくはそこそこの財力がある事の証明は出来ないでもないですが……」
でも、とレンさんは言葉を続ける。
「先に、そちらの素性を教えていただきたい」
テンドーとハースが、顔を見合わせた。だが、その背後に居るクリンは、レンさんの顔を、ずっと見つめていた。まるで、何かを探ろうとしている様な、そんな眼で。
「クリン」
ハースが、彼女の名を呼び振り向いた。それを受けたクリンは、ゆっくりと、そして小さく頷く。ふぅ、と息を吐いた彼は、テンドーの右肩を破壊せんと言わんばかりにがっしりと掴み、低い声で言った。
「じゃ、説明頼んだぜ、テンドー」
「うん? ハース、君が説明するんじゃないのかい?」
「ドアホ、お前、名目上はリーダーだろ……! わざわざ呼んだんだから、少しぐらいは仕事しろ!」
今まで真剣な表情をしていたクリンが、にやりと笑って、言った。
「面倒くさくなってきたんだね!」
「五月蠅い、お前も黙れ!」
悪い悪い、と言いつつもクリンの顔は笑ったままだ。
……僕には、レンさんとヴェレさんに対し「いつもの事なので」と苦笑混じりに小声で伝えることが精一杯だった。
やっと、彼らは席に座った。レンさんの隣にはテンドー、僕の隣にハース、そして一番手前にクリンが座る。
ふぅ、とテンドーが頬杖をついて、レンさんとヴェレに笑いかけた。
「エレヴ、という島を知っているか?」
「ああ、聞いたことならありますね、えっと――」
「ああ、そうだ」
テーブルの上で手を組んで、クリンが突然口を挟んだ。
「丁寧語で無くても構わない。私たちも、慣れてはいないから」
ハクだけは別だけど、と彼女は悪戯っぽく笑って僕の名を口にした。なんだかちょっとだけ、バツが悪い。
「なら、遠慮無く」
そう笑って、レンさんもまた手をテーブルの上に置いて、笑った。
「エレヴ、だったな。この世界を漂う幻の島、そんなお伽噺を聞いたことがあるな」
レンさんの顔が、ふと真剣な表情になる。
「その幻の島には、妖精の血を引く騎士団なる者達が居ると聞く。……もしや、貴方達が……?」
「ビンゴ!」
そう言って親指を立てたのは、エールだった。苛々とした様子で、ハースが突っかかる。
「お前はちょっと黙ってジュースでも飲んでろ……!」
ハースが一番五月蠅い、そう思わずには居られなかったのだが。
「ハース、君が一番五月蠅いよ。君こそ牛乳飲もうぜ牛乳。カルシウム摂取しようぜ、な!」
僕が思ったそのままに、テンドーが突っ込みを入れた。
五月蠅い黙れ、とハースが突っかかる対象をテンドーに変えている内に、こっそりとクリンは、エールと、そしてヴェレさんに――彼は最初は渋ってはいたけれど――注文を聞いて、そしてこっそりと注文をする。
「ええっと、チョコレートドリンクとオレンジジュース、ミルクティにホット珈琲、後、ミルクを頼む」
「かしこまりました」
「いやちょっと待て、勝手に頼むんじゃねぇ……! つーか俺も珈琲でいい!」
「じゃあ、間を取って珈琲牛乳でいいんじゃないか?」
「だからテンドーは黙れと言ってるだろうが!」
ああまた始まった、と溜息をついて、僕はレンさんに言った。
「しかし、よく一発で言い当てましたね。……というか、疑いもしないのですか?」
この人が、否定の意を示さないのが気になって、僕はつい問いかけた。
「いいや、疑っていない訳では無いのだが……まあ、エレヴでは無いが、「幻」の付く地自体には縁があって、な」
「例の「幻の街」――錬金都市か……?」
注文に対する言い争いを終結させて――結局、彼の飲み物も珈琲になったらしい――ハースは言った。
「ご名答。その通りさ」
「本当、なのかっ……?」
「ああ。……これを見てもらえれば、ギルドの件と合わせて、信じてもらえると思っているのだが……」
そう言って、レンさんはロングコートの中へと右手を突っ込んだ。そして、何やら掴んだそれを、机に置く。
「ギルドの資金源だ、あまり乱暴には扱わないでくれ」
そう言って、レンさんは「それ」を包んだ布を解いた。
――それは、桃紫色に輝く結晶と、水の如く透き通った、でも僅かに薄紫に色づく鉱石だった。後者は解らないけれど、前者は恐らく幸運のクリスタル。だが、何かが、違う……?
震える手で、さっとハースがそれらを手に取った。そしてまじまじと見つめ、疑問系で言葉を発した。
「リチウムと……幸運の、加工クリスタル……?」
「これがっ? 初めて見た!」
身を乗り出すエールに便乗するように、僕もまた首を伸ばしてそれを見ようとする。
僕だって、間近で見るのは初めてだ。言われてみると、成る程、通常のクリスタルと比べて輝きが美しい気がする、そう、あくまで気がするだけかもしれないが。
リチウムはニハル地方でしか取れない、貴重な鉱石だ。そして、その大半をアリアントの王族が独占していると聞く。よく思い出してみれば、僕も一度だけアリアントへ行った際に、宮殿を彩るリチウムを見たような気がする。だが、ニハル地方以外の場所で見たのは、これが初めてだ。
対して、強化クリスタル。これはリチウムより更に貴重で、なんでも、加工できるというのが、かの幻の錬金都市の職人達、若しくはその弟子達のみだという。市場でもリチウム以上の価値がつき、上級ともなれば、それ一つで良強化装備に匹敵する価値があるという。
「ああ。クリスタルに関しては中級レベルだが、それでもなかなか良質だろう? 上級もあるにはあるが、流石にこれは」
「まあ、確かにな……だが、これだけなら盗人にだって準備出来る……」
「盗人、ってハース、ちょっと酷くないっ?」
エールが、眉を釣り上げて割り込んだ。
「だから割り込むなっつーてんだろーが……!」
彼女をぎっと睨み付けた後、彼は一旦黙って、レンさんに向かい、小さく言った。
「最後に、これを証明してくれれば信じてやる。かの、ギルドマスターには――」
言いかけて、あのハースが口を噤んだ。レンさんはというと、彼の眼をじっと見つめている。そしてその眼をいつの間にか真剣な面持ちに戻ったクリンがまた、見つめていた。……たまらなく、気まずいかった。
……笑ったのは、レンさんだった。清々しいような、苦々しいような、そんな、複雑な笑い方。
「大方、聞きたい事は解った」
「リー、ダー……?」
ヴェレさんが初めて見せた、不安そうな表情。その彼にレンさんは唯一言、「大丈夫だ」と言葉を投げた。
丁度、ウエイトレスがクリンの注文した品を持って来た。レンさんの含めた僕らは会釈をする。この空気を読み取られたのか、それとも、会話自体を聞いていたのか……彼女は足早に去っていった。
そして、ウエイトレスを見送ると、レンさんは立ち上がり。
「……聞きたいのは、これだろう?」
金の刺繍を施した白いマントをはらりと落とす。
その隠された背から姿を現したのは――一対の小さな、悪魔の羽だった。
−−−−−−−−−−
「ああ、見せるのは、そちらの素性をもう少し把握してからのつもりだったのだが」
苦笑いしながら、レンさんは椅子に座ってマントを羽織った。
「ハース、知っていたのか」
「聞いたことはあったが、まさか本当だったとは……」
小声で言葉を交わすハースとクリンを尻目に、テンドーとエールが身を乗り出す。
「わー、これが噂の。うち、初めてみたよ」
「俺もだぜ、エール」
いくら何でも無神経すぎだろう。僕はそう思った。
けれど、レンさんの反応は違った。
「自分も、自分以外に生えているのは見たことがないな」
まるで他人事の方様な、軽い口調。
「レンさんって、人間族?」
「そうさ、「これ」は後天性だ。勿論、本来は異種族のものだが、人間族にも色々な事が切っ掛けで生える事は割とあるらしい」
「へー、そんなもんなんだー」
レンさんは頬杖をついて、そしてハースとクリンの方を向いて言った。
「人目に付かないところで助かった。妖精族の管轄、というのは少し不安ではあったがな。……さて、こっちのカードは全て出した。そちらのカードも、見せてもらえるものなら見せて頂きたいんだが」
その口元には、僅かながらも笑みすら浮かんでいて。
「まずは……聞き損ねていたエレヴの、騎士団の話を聞いてみたいな」
まるで、お伽噺をねだる子供の様。何となく、そんな印象を抱いた。
そうだな、とテンドーがクスリと笑って、口を開いた。
「ビクトリアアイランドで就ける職と系列的には同じさ。戦士、弓使い、魔法使いに盗賊、そして海賊。ただ、違うのは――」
パチン、と彼が指を鳴らすと、彼の背後から突然、光の珠――つまり、彼を守護する「ソウル」と呼ばれる精霊が姿を現した。寄り添うように彼の顔の側で浮遊するソウルに一度微笑みを向けて、彼は言う。
「エレヴの騎士達は、一人一人精霊と契約を交わして、その力を借りるって事かな」
「へぇ。聖魔や銃使いの召喚術とは、また違うのか?」
「そうだな、勿論一緒に戦ってくれたりもするけど――」
「軽く、実践しようか?」
そう言って椅子から立ち上がったのは、クリン。疑問系で聞いてはいるものの、既にやる気なのが見てとれる。
「わー、うちも見たいな!」
「他に客が居ないからって、派手にはやるんじゃねーぞ……屋内なんだぞ、ここは……」
目を輝かせるエールとうんざりとした様子のハース。正直、僕もハースに賛成ではある。
そんな状況を知ってか知らずか、鼻歌交じりに
「解ってる解ってる。……おいで、ライトニング」
そう呼ばれて現れたクリンの精霊は……彼女の影からそっとこちらの様子を伺っていた。
「お、ハク君と同じ精霊か」
どうやら、僕らが追われていた時に後からやってきたライトニングの事を、レンさんは覚えてくれていたらしい。レンさんがクリンのライトニングに笑いかける。が、ライトニングは、ますますクリンの影に隠れてしまった。
「申し訳ない、うちの精霊、極度の人見知りというか恐がりで」
あはは、とクリンはバツが悪そうに笑う。
「契約を交わす精霊は、職業によって決まっている。ライトニング、というのは言わば種族名さ。海賊系統のストライカーと呼ばれる職は、この雷の精霊と契約を交わす事になっている」
へぇ、と説明を聞くレンさんの隣で、いつの間にかヴェレさんもクリンの方を見ている事に僕は気付いた。無言である事に違いはないのだが、何というか、左目に光が宿った気がする。
……まあ、無言である事に関しては、僕も同じなのだが。
「ハク!」
急に、クリンが僕の名を呼んだ。
「は、はいっ!」
「的が無いと加減が解らない。サンドバッグ係、宜しく」
「そんな無茶苦茶な!」
そう言ったところで、この様子では他の人を指名するだけだろう。溜息を吐きつつも、僕は椅子から立ち上がった。ハースの背後を通り、クリンと向かい合う位置で立ち止まる。
「見切れる早さにして下さいよ……」
「解っている」
本当にこの人は、倍以上あるレベル差を理解しているのだろうか……そう思わずにはいられなかった。
僕が呼ぶ前に、僕を守護するライトニングがふっと姿を現した。顔の側でべったり、という事に関してはクリンのライトニングと同じではあるが、彼女の精霊とは違って、僕の精霊は落ち着きの無い様子できょろきょろと辺りを見回している。
雷の精霊であろうと「雷」そのものでは無い訳だから、別に接触したからと言って感電する訳ではない。
――だが、「それ」に近いものである以上、多少の刺激はある訳で。
「痛ぇ痛ぇ、くっつきすぎだっての!」
ひりひりとする頬を数度さすって、僕は数歩後退した。腰に吊り下げていた武具をはめながら、僕は彼女に問う。
「武具は付けてもいいですよね? 流石に、素手じゃ受けられない……」
「ああ、構わない」
クリンはにやりと笑う。その笑みに苦笑いを投げ返し、僕は息一つ吐いた。
「では、行こう」
彼女の両手が、「雷」の力を帯びる。可視出来るその力見て、レンさんが呟いた。
「バイパーやバッカニアが「気」の力を操るのと似たようなもの、なのだろうか」
「多分、ね。己の力が主なのか、他者の力が主なのか、そういう違いはあるけれども」
オーケー、とクリンは己のライトニングに語りかける。両手に帯びた雷の力が解放され――厳密には、可視出来ない程度に弱まった。
「ちなみに今のは「ライトニングチャージ」というストライカーのスキルで、雷の力を己の攻撃に上乗せするスキル。最も、これを使わずとも、シグナスの戦士は普段から精霊の力によって強化されているのだけれど」
こんな風に、とクリンは僕に向かって軽くストレートを繰り出す。それはストレートにしてはゆっくりな速度ではあったけれど、僕は慌てて両手で顔をガードした。クリンの拳と僕の武具が接触した場所から、小さく、黄色い火花が散った。
成る程、とレンさんが頷いた。そして、ふと思い出したように。
「精霊の力……そう言えば、「祝福」と言っただろうか、アレは一体……」
ああ、と僕らは顔を見合わせた。
「騎士団の人間は、その職に就く時に「世界の誰か」と繋がりが出来るんだ」
そう、テンドーが答える。
「繋がり?」
「ま、イメージ的には「運命の赤い糸」と似たような感じだろうか。恋愛は関係無いけどな!」
「成る程、な……」
テンドーの説明に水を差さぬ様、小さくクリンが「もう戻ってくれて構わない」と僕に耳打ちした。話題が「祝福」の件に変わったからだろうか。何にせよ、一度打ち合うだけでよかった、助かった……と僕は思った。
詰めずにそのままの位置で座っているハースの――多分、エールの隣は嫌だったのだろうけど――その背後を再び通り、席へと座る。
「「祝福の糸」で繋がれた者同士は互いに力を高め合う――俺達の間ではそう言われているんだ。最も、その糸の先に誰がいるのか、解らないのが普通なんだけど」
「つまり、ハク君の繋がりの相手が自分である、と」
「多分そうだと、俺たちは思う。まあ、特に何があるって訳ではないんだけどな」
「ま、これも何かの縁だろう」
レンさんとヴェレさんを見つめて、クリンは楽しそうに言う。
そうだ、と僕はふと思い出して、口を開いた。
「テンドー。実は明日、一緒に観光しないかとレンさんに誘われているんだけど……いいかな?」
テンドーのリアクションは、ほぼ予想通りだった。
「おお、いいんじゃないか! 俺も一緒に行ってもいいかっ?」
それは多分保護者としてではなく、純粋に一人の人間としての発言。
テンドーの申し出に答える前に、レンさんはヴェレさんの方を向いて、問いかけた。
「ヴェレは、構わないか?」
「どちらにせよ、船の修理が終わるまではオルビスから離れられませんしね。元々誰かと同行するのは決定事項みたいですし、貴方が一緒でしたら、他にどなたが一緒でも構いませんよ」
ヴェレさんの口元が、僅かに笑っていた。
テンドーの方を向き直して、レンさんは言った。
「なら、こちらは大歓迎だ」
そういえば、とクリンが口を開く。
「船がどうこうと言っていたけど、宿は決まっているのだろうか?」
窓から見える景色は、いつの間にかすっかり夜のものになっていた。
「はは、実はまだだ……。滞在する予定も無かったし、船のトラブルで宿も満室。本当は紹介でもしてもらおうかと思っていたのだが、妖精の区域じゃあ、流石に、な」
「図々しいにも程がありますよ」
ヴェレさんがそう突っ込みを入れる。
「自分一人なら、野宿でも何でもすれば構わないのだがな」
レンさんが、バツが悪そうに笑った。
「ねーねーテンドー、どうにかならないの?」
エールの言葉に、テンドーは腕を組み考える素振りを見せる。だが、すぐにその腕を解き。
「……そうだな、一部屋ぐらいどうにかなるだろう!」
「まーた無責任なことを……」
テンドーの言葉を聞いて、ハースが溜息をつく。そんな彼に、クリンが言った。
「あれ、今日は否定しないんだね?」
「手続きやら何やら、全部テンドーがやるなら、な……。俺は関係ない」
全く、とクリンは小さく笑って、それ以上は何も言わなかった。
「ありがとう、恩に着る」
「ありがとう御座います」
レンさんと一緒に頭を下げるヴェレさん表情が、此処へ着た時とは比べものにならないぐらい軽くなっていた気がした。
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2009.11.3up(修正版に差し替え:2009.11.17)
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